東大過去問 1971年 第1問(要約)

/ 12月 2, 2019/ 第1問(要約), 東大過去問, 過去問/ 10 comments

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  • 難易度★★★☆☆(3/5)
  • 東大要約問題の一覧はこちら

【目次】

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【問題】

 次の文の論旨を80字から100字までの範囲の日本文で書け。ただし句読点も字数に数える。

What has made nonsense of most modern education in North America is simply the misapplication of the democratic belief that all men are created equal. Nobody believes this in anything that matters to the common man: the common man does not for an instant believe that an untrained fighter is the equal of the trained one, or that a boy with slow reflexes can play baseball like Babe Ruth or Ted Williams. But in education it is convenient to believe that all men are created equal, and this has been the main difficulty ever since any of us alive can remember. In order to be true to the democratic idea, our schools for years have supported a system in which excellence has been sacrificed. The intelligence level of the not too bright literally controls the curriculum, and able pupils are compelled to do their work at the slow learners’ pace. This was already the case when I went to school. Since then a flood of new theories has invaded the system with results which would have horrified even the liberal teachers and parents of my day. In some educational philosophies it is argued that it is practically a form of cruelty to expose a dull or lazy child to the competition of excellence, so giving grades such as A, B, or C is abolished. Failure, it is claimed, will turn the dull boy into a neurotic. It never occurs to people who think like this that frustration will do the same for the excellent boy.
(注) reflexes:反射(いわゆる反射神経)、 neurotic:神経症患者、 frustration:欲求不満

【単語】

  • misapplication 誤って適用すること
  • democratic belief 民主的な信条
  • for an instant 決して〜ない
  • untrained fighter 訓練されていないファイター
  • slow reflexes 鈍い反射神経
  • Babe Ruth ベーブ=ルース(メジャーリーグの強打者)
  • main difficulty 最も困難なこと
  • excellence 優秀さ
  • sacrifice 犠牲にする
  • the intelligence level of the not too bright それほど賢くないものの知的レベル
  • literally 文字通り、実際に
  • curriculum カリキュラム
  • able pupil 優秀な生徒
  • compel 強制する
  • slow learner’s pace 学びが遅いもののペース
  • This was already the case このことはすでに以前から事実であった
  • flood of new theories 新しい理論の洪水(次々と生まれること)
  • invade 侵略する
  • horrify 脅かす
  • liberal リベラルな
  • educational philosophy 教育哲学、教育論
  • practically ほとんど、実際
  • cruelty 冷酷さ、虐待
  • expose さらす
  • dull and lazy child 頭が鈍く怠け者の生徒
  • competition of excellence 優秀性の競争→優劣を競うこと
  • give grades 成績評価を与える
  • abolish 廃止する
  • turn A into B AをBにする
  • neurotic 神経症患者
  • It never occurs to people それらの人々には思いつかない
  • do the same 同じことをする

【和訳】

北米のほとんどの現代教育を無意味なものにした原因は、単純に、全ての人間は平等に作られているという民主的な信条を誤って適用した事である。普通の人は、どんなことに関しても、これを信じてはいない。普通の人は、例えば、訓練されてない戦士が訓練された戦士と同等だとは思わないし、反射神経の鈍い少年がベーブ・ルースやテッド・ウィリアムスと同じように野球ができるとは思わない。しかし、教育においては、全ての人間が平等につくられていると都合良く信じられていて、現在生きている人々が思い出せる限りで、これが最も困ったことなのである。この民主的思想に正直に従うために、学校は何年にもわたって、優秀な生徒が犠牲になるようなシステムを採用してきた。たいして利口でない生徒の知的レベルが、文字通り、カリキュラムを制限している。そして、有能な生徒は、学ぶのが遅い生徒のペースに合わせて勉強する事を強要されている。このことは既に、私が学校に行っていた頃からそうであった。それ以来、新しい教育理論が洪水のように生まれ、教育システムを侵略し、その結果は私の学生時代に存在したリベラルな教師や親たちまでをも脅かすほどである。一部の教育論においては、鈍くて、無精な子どもに優越を競わせることは一種の虐待といってもよいほどのものであり、だからこそABCといった成績評価を与える事は廃止されているのだ、と主張されている。その主張によると、成績が良くない事が、鈍い少年を神経症患者にしてしまうという。こんな風に考える人々には、欲求不満によって優秀な生徒にも同じ事が起きるという考えは、思いもよらないのであろう。

【解答例】

北米の教育においては、人の能力が等しいと信じられているために、利口でない子のレベルでカリキュラムが組まれ、競争は残酷だとして抑制されてきた。それが優秀な生徒を欲求不満にし、犠牲にすることになっている。(100字)

【解説】

まずはしっかりと和訳できることが大前提です。「ざっくりと文意をつかめばよい」というような読み方は、東大受験では通用しません。どうしても分からない部分は仕方ないにしても、基本的に全ての文を正確に(かつ速く)読む必要があります。

ですから僕は、要約(第1問)の対策を始める前に、和訳(第4問)に取り組み、おおよそ正解できるようになることを生徒に勧めています。 正確に和訳できれば、自ずとしっかりとした要約が書けるはずです。

もし和訳を正確にできるのに要約が出来ないのであれば、国語の勉強をするべきでしょう。 そうは言っても、要約のコツがなかなかつかめない生徒も一定数います。そういう生徒は下のポイントを実践してみましょう。

【要約のポイント①】 まずは一番重要な内容をできるだけ簡単に言ってみる

 

要約の中でもさらに一番大切な部分ですね。つまり要旨の要旨です。それを最初に一言でまとめてみましょう。そうすればポイントを外すことはないですし、ある程度の点数(10点中3、4点)は貰えるはずです。

ではこの年の文章の一番のポイントはどういったものでしょうか。それは「教育をバカに合わせたらダメ!」ということです。もちろんこのまま解答にするわけにはいきませんが、これを軸にして書いていくわけです。

改めて、最初から本文を見てみると、modern education in North Americaとあります。つまりこれは北米での話です。この北米というワードは必須です。本文の内容はあくまで北米での話であり、世界の別の地域には、優秀な生徒だけを選りすぐってエリートを養成している国もあります。ですからまずは「北米」と断り書きをしなければなりません。

【要約のポイント②】「誰」「どこ」「いつ」の話なのか、設定を明確にする

 

さて第一文に「北米のほとんどの現代教育を無意味なものにした原因は、単純に、全ての人間は平等に作られているという民主的な信条を誤って適用した事である」とあるように、最初にほぼ結論が書いてあります。教育論ですね。

ですが、このまま書いたら本文を読んでいない人には理解できないでしょう。抽象的すぎるからですね。「民主的な信条とは何なのか」「それが何故悪いのか」について、もう少し噛み砕かねばなりません。

当然のことではあるのですが、たまに勘違いしている人がいるので、以下のポイントを確認しておきます。

【要約のポイント③】要約とは、本文を読んでいない人でも、それを読むだけで内容を把握できるものでなければならない

 

読み進めます。最初から教育の話だと書いてあるので、Babe RuthやTed Williamsなどはどうでもいいですね。人の能力が生まれながらに異なるという例に過ぎません。

教育における「民主的な信条」とは、「生まれもった能力が違うのに、全ての人間が平等につくられていると都合良く信じて、教育を行うこと」です。その結果、以下の3つの問題が起こります。

  1. 学ぶのが遅い生徒のペースに合わせて勉強する事を強要される(カリキュラムの進みが遅い)
  2. 競争が残酷だとして廃止される
  3. 成績評価をなくす

2と3は似ていますね。以上のことから、要約に含めなければならないポイントをもう一度まとめてみましょう。

  1. テーマ:教育
  2. 場所・時:現在(しばらく前から)の北米
  3. 結論:優秀な子をそうでない子のレベルに合わせて勉強させるのは間違っている
  4. なぜそのようなことが起きるのか:能力が等しいとの神話=民主的な信条
  5. 結果:競争や成績評価の排除、学びのペースが遅くなる、優秀な子が認められない

この5点をまとめればよいでしょう。

【要約のポイント④】『テーマ』『時と場所』『結論』『なぜ』を確認する

 

要約のポイント①、②、④は内容が重複しているのが分かるでしょうか。 ちなみに『それ以来、新しい教育理論が洪水のように生まれ、教育システムを侵略し、その結果は私の学生時代に存在したリベラルな教師や親たちまでをも脅かすほどである。』 の部分が分かりにくいので、ここに囚われてしまう生徒がいるかもしれません。

リベラルというのは、筆者の嫌っている、教育上の平等を推し進める立場のことです。筆者が子供の頃にいたそうしたリベラルな人々でさえも眉を顰めたであろう(仮定法過去完了)、極端な平等を謳うよりリベラルな教育理論が今現在もどんどん生まれており、教育システムを侵食している、という意味です。

英語が難しくて和訳できない、あるいは言っていること自体が読み解けない、という場合は、そこを要約に入れてはいけません。要約の流れがそちらに引っ張られて、本筋が崩れてしまいます。分かっていないことには触れない、というのは学問の基本姿勢でもありますが、これも一つ意識しておくと良いでしょう。

【要約のポイント⑤】分からない部分は要約に入れない

【生徒の答案】

人々は平等に創造されたものであるとする信仰を誤って適用し、民主的な考えに沿った結果、教育界は、優秀な学生の不満を無視する一方で、優秀ではない学生には配慮をするという不平等の問題を抱えることになった。(100字)

【生徒の答案の採点と添削】

非常にきれいな要約だと思います。文の美しさにおいては【解答】よりも優れています。一番大切なポイント(要旨の要旨)を押さえていますし、平等と不平等というまとめ方も分かりやすいです。10点中であれば、7点くらいでしょうか。

問題があるとすれば、「北米に限定されていないこと」、「いつの話であるか分かりにくい(今の話でなく過去の話にも思える)」ということです。

上記【解説】中の『5. 結果:競争や成績評価の排除、学びのペースが遅くなる、優秀な子が認められない』といった具体例も含まれていませんが、字数に余裕がある分、のびのびした分かりやすい書き方になっていますね。知性が感じられて好印象だと思います。

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  6. 北米では、人間の生来の能力差を認めないという民主的信念を教育にそのまま適用することで、優秀でない生徒だけでなく優秀な生徒にも不利益を与えているということに気づいていない教育関係者が多い。(93字)

    1. コメントありがとうございます。全体としての方向性が正しく、読みやすい解答だと思います。直すとすれば2つのポイントになります。

      ①『優秀でない生徒だけでなく』はない方が良いでしょう。優秀でない生徒に配慮した教育が行われているのが現状ですし、そのことが優秀でない生徒に悪影響を与えているという記述は本文中にありません。もしかしたら最終文の読み間違いでしょうか?

      ②『教育関係者が多い』と『教育関係者』に限るのは言い過ぎに感じます。普通の人々(はっきり言えば優秀でない生徒の親)の認識が一番の問題であるはずです。

      ①と②は共に、触れなくてよい微妙なラインまで踏み込んで書いたことで、減点される危険を生んでいます。そうした部分はうまく回避しながら解答を作ると良いでしょう。その分『民主的信念を教育にそのまま適用する』ということが具体的にどういうことなのかを書けば、伝わりやすい要約になると思います。

      全体の流れは正しいですし、しっかりした文なので印象は良いです。僕ならば7割程度の点を付けます。

  7. ご丁寧な説明ありがとうございます。
    ご指摘いただいた2点の趣旨、よくわかりました。
    蛇足ながら、間違った経緯をお話ししますと、①については、最後の文ではなく、その前と、さらにその前の文の some educational philosophies および it is claimed 以下の内容を著者の主張と混同してしまったからです。また、②については時間の関係で最後の部分を粗雑にまとめてしまった結果です。
    今後に活かしていきます。

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  9. 北米の教育には、皆が平等という民主主義的概念を都合よく導入し、頭が悪い生徒に学習、教育基準を合わせることで神経症患者になることを防ぐ一方で、優秀な生徒を欲求不満にして犠牲にしている。 91字

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