京大過去問 2020年 第1問(英文和訳)

/ 10月 18, 2021/ 英文和訳, 京大過去問, 難易度★★★★, 未分類/ 0 comments

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【問題】

次の文章を読み、下の設問(1)~(3)に答えなさい。

Various doctrines of human cognitive superiority are made plausible by a comparison of human beings and the chimpanzees. For questions of evolutionary cognition, this focus is one-sided. Consider the evolution of cooperation in social insects, such as the Matabele ant. After a termite attack, these ants provide medical services. Having called for help by means of a chemical signal, injured ants are brought back to the nest. Their increased chance of recovery benefits the entire colony. Red forest ants have the ability to perform simple arithmetic operations and to convey the results to other ants.
When it comes to adaptations in animals that require sophisticated neural control, evolution offers (a)other spectacular examples. The banded archerfish is able to spit a stream of water at its prey, compensating for refraction at the boundary between air and water. It can also track the distance of its prey, so that the jet develops its greatest force just before impact. Laboratory experiments show that the banded archerfish spits on target even when the trajectory of its prey varies. Spit hunting is a technique that requires the same timing used in throwing, an activity otherwise regarded as unique in the animal kingdom. In human beings, the development of throwing has led to an enormous further development of the brain. And the archerfish? The calculations required for its extraordinary hunting technique are based on the interplay of about six neurons. Neural mini-networks could therefore be much more widespread in the animal kingdom than previously thought.
Research on honeybees has brought to light the cognitive capabilities of (b)minibrains. Honeybees have no brains in the real sense. Their neuronal density, however, is among the highest in insects, with roughly 960 thousand neurons — far fewer than any vertebrate. Even if the brain size of honeybees is normalized to their body size, their relative brain size is lower than most vertebrates. Insect behavior should be less complex, less flexible, and less modifiable than vertebrate behavior. But honeybees learn quickly how to extract pollen and nectar from a large number of different flowers. They care for their young, organize the distribution of tasks, and, with the help of the waggle dance, they inform each other about the location and quality of distant food and water.
Early research by Karl von Frisch suggested that such abilities cannot be the result of inflexible information processing and rigid behavioral programs. Honeybees learn and they remember. The most recent experimental research had, in confirming this conclusion, created an astonishing picture of the honeybee’s cognitive competence. Their representation of the world does not consist entirely of associative chains. It is far more complex, flexible, and integrative. Honeybees show context-dependent learning and remembering, and even some forms of concept formation. Bees are able to classify images based on such abstract features as bilateral symmetry and radial symmetry; they can comprehend landscapes in a general way, and spontaneously come to classify new images. They have recently been promoted to the set of species capable of social learning and tool use.
(c)In any case, the much smaller brain of the bee does not appear to be a fundamental limitation for comparable cognitive processes, or at least their performance. The similarities between mammals and bees are astonishing, but they cannot be traced to homologous neurological developments. As long as the animal’s neural architecture remains unknown, we cannot determine the cause of their similarity.
From The Smart Set, Inference Volume 3, Issue 4, by Ludwig Huber
 
(1) 下線部(a)の具体例として、このパラグラフではテッポウウオが獲物に水を噴射して狩りをする能力が紹介されている。その能力の特長を3点、日本語で箇条書きにしなさい。
(2) 下線部(b)でいうminibrainsとは、ミツバチの場合、具体的にはどのような意味で用いられているか。本文に即して日本語で説明しなさい。
(3) 下線部(c)を和訳しなさい。
 

【和訳】

ヒトの認知能力の優越性に関する様々な説は、ヒトとチンパンジーを比較することによって、もっともらしく語られている。認知の進化を問題とするならば、こうした着眼点は一面的である。マタベレアリのような社会的昆虫の協業の進化について考えてみよう。シロアリの攻撃を受けると、この種のアリは救護活動を行う。化学物質の信号によって助けを求めることで、負傷したアリは巣に連れ帰ってもらう。負傷アリが回復する機会が増えることは、コロニー全体の利益となる。レッド・フォレスト・アントは、簡単な計算をこなし、その結果を仲間のアリに伝える能力を持っている。
動物が高度な神経の制御を必要とする適応を遂げてきたことに関して言えば、進化は(a)他にも素晴らしい事例を提供してくれている。テッポウウオは空気と水の境界における光の屈折を補正した上で、獲物に一条の水を発射することができる。さらにテッポウウオは獲物までの距離を検知できるので、発射された水は命中する直前にその威力を最大化できる。研究室での実験では、獲物の軌道が変化する場合であっても、テッポウウオは標的に水を命中させることが示されている。水の発射による狩猟技術は、投擲に用いられるのと同じタイミングを必要とするが、投擲はテッポウウオの水鉄砲を除けば、動物界においてヒト固有のものとみなされる行為である。ヒトにおいては、投擲の発展が脳のさらなる飛躍的発達をもたらした。ではテッポウウオにおいてはどうだろう?並外れた狩猟技術に必要な計算は、およそ6つの神経細胞の相互作用に基づいて行われている。したがって神経細胞の小型ネットワークは依然考えられていたよりずっと広範に動物界に行き渡っている可能性がある。
ミツバチの研究によって、(b)微小脳の認知能力が明らかになってきている。ミツバチは本当の意味での脳を持たない。しかしその神経細胞の密度は昆虫の中で最高の部類であり、その数はおよそ96万個である。ただしこれはどの脊椎動物と比べても少数である。たとえミツバチの脳のサイズを体のサイズに合わせて標準化したとしても、その相対的な脳のサイズはほとんどの脊椎動物よりも小さい。したがって昆虫の行動は脊椎動物の行動よりも複雑さ、柔軟性、修正力を欠くはずである。しかしミツバチは数多くの多様な花から花粉と蜜を集める方法を短時間で学習する。ミツバチは子の世話をし、仕事の割り当てを手配し、尻振りダンスを利用して、離れた場所にある食糧や水の場所と質を伝え合う。
カール・フォン・フリッシュによる初期の研究によると、そうした能力は柔軟性のない情報処理や融通の効かない行動プログラムによるものではありえないと示唆されている。ミツバチは学習し、記憶する。最新の実験は、この結論を確認する過程において、ミツバチの認知能力に関する驚くべき実像を描き出した。ミツバチの描く世界は連想を繋げたものだけで成立しているわけではない。それはずっと複雑で、柔軟で、統合的である。ミツバチは文脈依存的な学習と記憶のみならず、ある種の概念形成をも見せる。ミツバチは左右の対称性や放射状の対称性といった抽象的な特徴に基づいて、映像を分類することができる。つまりミツバチは風景を一般化して把握することが可能で、初めて見る映像を分類するようになるのである。ミツバチは最近、社会的学習と道具使用のできる種へと格上げされた。
(c)いずれにせよ、ミツバチの脳は脊椎動物の脳に比べかなり小さいものの、脊椎動物と同等の認知処理、あるいは少なくともその実行にあたり、根幹的な制約をもたらしているようには思われない。哺乳類とミツバチの類似性には目を見張るものがあるが、神経学的に同様の発達を遂げてきたからだと言うことはできない。ミツバチの神経の構造が解明されていない以上、その類似性の原因を断定することはできないのである。
 

【解答】

(1) 空気と水の境界における光の屈折を補正すること。獲物までの距離を検知し、命中する直前に威力を最大化すること。獲物の軌道が変化する場合でも、標的に水を命中させることができること。
(2) 脊椎動物の脳とは違っており、神経細胞の数も少ないものの、昆虫類としては最多の部類であるおよそ96万個の神経細胞からなる微小脳。脊椎動物の脳に劣らない複雑性・柔軟性・修正力を備えており、学習・記憶・仲間とのコミュニケーションが可能である。さらにある種の概念形成・抽象化・一般化が可能で、初めて見るものを類型化して理解する能力を持つ。
(3) いずれにせよ、ミツバチの脳は脊椎動物の脳に比べかなり小さいものの、脊椎動物と同等の認知処理、あるいは少なくともその実行にあたり、根幹的な制約をもたらしているようには思われない。哺乳類とミツバチの類似性には目を見張るものがあるが、神経学的に同様の発達を遂げてきたからだと言うことはできない。ミツバチの神経の構造が解明されていない以上、その類似性の原因を断定することはできないのである。
 

【難単語・難熟語】

  • doctrine → 教義、学説
  • cognitive → 認知の(<cognition 認知)
  • superiority → 優越していること
  • plausible → もっともらしい
  • comparison → 比較
  • evolutionary → 進化の、進化論の
  • focus → 焦点、力点
  • one-sided → 一方的な、一面的な、偏った
  • cooperation → 協力、協同
  • social insect → 社会性を持った昆虫
  • the Matabele ant → マタベレアリ(アフリカに生息するアリ。自分より大きなシロアリを攻撃して捕食する攻撃的なアリ。)
  • termite → シロアリ
  • call for → 要求する、必要とする
  • by means of A → Aによって、Aを用いて
  • chemical → 化学の
  • nest →
  • recovery → 回復
  • benefit → 利益を与える、ためになる
  • colony → 動物の群棲、コロニー
  • perform → (計算を)する
  • arithmetic → 算数、計算
  • operation → 演算
  • convey → 伝える
  • adaptation → 適応
  • require → 必要とする
  • sophisticated → 洗練された、高度な
  • neural control → 神経の制御
  • spectacular → 目を見張るような、劇的な
  • banded archerfish → テッポウウオ(bandedは『縞模様の』)
  • spit → (つばを)吐く(ここでは水を吐く)
  • stream → 流れ
  • prey → 獲物
  • compensate → 補正する
  • refraction → 屈折
  • boundary → 境界
  • track → 追跡する
  • impact → 衝突
  • trajectory → 軌跡、軌道
  • otherwise → そうでなければ
  • the animal kingdom → 動物界
  • lead → 結果を引き起こす
  • enormous → 非常に大きい、ものすごい
  • interplay → 相互作用
  • neuron → ニューロン、神経細胞
  • require → 必要とする
  • extraordinary → 並外れた
  • previously → 以前に
  • minibrain → (昆虫の)微小脳
  • bring A to light → Aを明らかにする
  • density → 密度
  • vertebrate → 脊椎動物
  • normalize → 標準化する
  • relative → 相対的な
  • modifiable → 修正可能な、柔軟な
  • extract → 抽出する
  • pollen → 花粉
  • nectar →
  • care for A → Aの世話をする
  • organize → 手配する、整理する
  • distribution → 割り当て、分配
  • waggle dance → ミツバチの尻振りダンス
  • processing → 過程、(一連の)手順、工程
  • rigid → 厳重な、変更の効かない、頑固な
  • confirm → 確認する
  • competence → 能力
  • representation → 表現したもの、心象
  • associative chains → 連想の鎖連想を繋げたもの
  • context-dependent → 文脈に拠った、文脈依存の(=その時々の文脈(状況)を判断しなければ意味が決まらないということ)
  • classify → 分類する
  • bilateral → 相互の、左右対称の
  • radial → 放射状の
  • symmetry → 対称、均整
  • comprehend → 理解する、把握する
  • landscape → 風景
  • spontaneously → 自発的に、自然に、無意識に
  • promote → 昇進させる
  • in any case → いずれにせよ
  • comparable → 同等の
  • performance → 実行、仕事の出来栄え
  • similarity → 相似、類似
  • mammal → 哺乳類
  • astonishing → 非常に驚くべき、信じがたいほどの
  • homologous → 一致する、相同の
  • neurological → 神経学の
  • as long as~ → 〜である限り、(米)〜なのだから
  • architecture → 構造、建築
  • remain~ → 〜のままである
  • determine → (事実・原因を)特定する
  • cause → 原因

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【読解・解答のポイント】

本文が各段落で何を述べているのかを理解していると、各設問がどの部分について答えるよう求めているのか分かりやすくなる。
    • 第1段落…ヒトの認知能力を考察するのに、昆虫など(脊椎動物以外)との比較が役に立つ。例①マタベレアリの社会性。
    • 第2段落…例②テッポウウオの狩猟。テッポウウオの認知能力は優秀だが、脊椎動物の脳とは異なる。それは神経細胞の小型ネットワークに依る。
    • 第3段落…例③ミツバチの微小脳とその能力。
    • 第4段落…ミツバチの続き。ミツバチの認知能力はこれまで考えられていたよりずっと優秀である。
    • 第5段落…まとめ。ミツバチの認知能力は優秀だが、その神経構造が解明されるまでは、哺乳類(脊椎動物)の脳の延長で捉えるべきではない。
 

(1)の問題は第2段落を正確に和訳できれば、簡単に答えることができる。

難易度★★The banded archerfish is able to spit a stream of water at its prey, compensating for refraction at the boundary between air and water. It can also track the distance of its prey, so that the jet develops its greatest force just before impact. Laboratory experiments show that the banded archerfish spits on target even when the trajectory of its prey varies.

テッポウウオは空気と水の境界における光の屈折を補正した上で、獲物に一条の水を発射することができる。さらにテッポウウオは獲物までの距離を検知できるので、発射された水は命中する直前にその威力を最大化できる。研究室での実験では、獲物の軌道が変化する場合であっても、テッポウウオは標的に水を命中させることが示されている。

 

 

 

難易度★★★★★If we trace the history of opinion from the dawn of science in Greece through all succeeding epochs, we shall observe many constantly-reappearing indications of what may be called an intuitive feeling rather than a distinct vision of the truth that all the varied manifestations of life are but the flowers from a common root — that all the complex forms have been evolved from pre-existing simpler forms.

ギリシアにおける科学の黎明期から、その後のあらゆる時代を通しての思想の歴史を辿ってみると、多種多様な生命の出現は全て共通の根から生じる花に過ぎない、つまり全ての複雑な形態は以前から存在しているより単純な形態から進化してきたのだという真理を、明確な見解としてではなくいわば直観的に感得したとも言うべき説が、入れ替わり立ち替わり何度も指摘されてきた事が分かる。

 

難易度★★★★★And this explains, what would otherwise be inexplicable, the surprising ease and passion with which men wholly incompetent to appreciate the evidence for or against natural selection have adopted or “refuted” it. Elementary ignorance of biology has not prevented them from pronouncing very confidently on this question; and biologists with scorn have asked whether men would attack an astronomical hypothesis with no better equipment. Why not?

そして自然淘汰に対する証拠あるいは反証を理解する能力が全くない人々が、驚くほど簡単に、驚くべき情熱を持って、それを受け入れたり『反論』してきたことを、このことによって説明できるし、またそれ以外に説明のしようがないだろう。生物学の基礎的な知識が欠けている場合でも、そうした人々はこの問題について自信たっぷりに意見を述べるのを止めようとしない。そして生物学者は軽蔑を込めて、そうした人々は天文学の仮説に対しても、同程度に予備知識がない状態でも批判を繰り広げるのだろうか、と疑問を投げかけてきた。当然、そうした人が批判を止めることはないだろう。

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