京大過去問 1999年 第2問(英文和訳)
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【問題】
次の文の下線をほどこした部分(1)~(3)を和訳せよ。
Susan Lichtman is sitting in the crowded reception area of the dentist’s office. She is waiting for her daughter, Nicki, to arrive, even though Nicki’s last words out the door this morning were to forget it, she had no intention of letting anyone put braces on her teeth, and that no one could make her. Not even her mother. Especially not her mother, Susan thinks now, the emphasis hers.
She checks her watch. Almost four o’clock. Still a few minutes before Nicki’s scheduled appointment. Even if she does show up, Susan recognizes, she’ll be late. Nicki is always late, unlike her mother, who is always early.
(1)She stares toward the reception room door, willing it to open and Nicki to walk through. But Nicki has been remarkably resistant to her mother’s will of late, and the door stays firmly closed. Are all fifteen-year-old girls so stubborn? So argumentative? What happened to the little girl whose love for her mother was once so absolute and unquestioning, whose every glance was filled with sweet and total admiration? Now whenever Nicki deigns to look her way, it is through eyes heavy-lidded with disgust, as if she is overwhelmed that this woman so out of touch with reality, this archaic, irrelevant remnant of the dark ages, could actually be her mother. Surely someone, somewhere, has made a terrible mistake.
The mistakes are all hers, Susan acknowledges silently. She’s the one who is either too lenient or too strict, too inquisitive or too disinterested, too old-fashioned or too trendy, too much or too little. Too angry. Too protective. Too moody. Too intense. Too tired. Whatever she can be, she’s too much of it, except for the one thing all the books say mothers should be — consistent. Unless consistently inconsistent counts for something, she thinks hopefully.
Not like her own mother.
Susan’s eyes automatically brim with tears, as they do every time she thinks of the mother she lost to cancer just months after Nicki was born. So beautiful. So patient. So instinctively correct in everything she said and did. (2)What would she think of the mother her daughter had become? What advice would she give her? How would she have handled the increasingly challenging young woman her infant grandchild had grown into?
As if on cue, the door to the reception area opens and Nicki sweeps through. Nicki always sweeps. She moves as if there is a camera following her, recording her every gesture, her eyes on guarded alert for the camera’s telltale red light that signals she is “on.” Susan watches in awe of her daughter’s total self-absorption as Nicki removes her jacket and hangs it up, fluffs her long brown hair in the small mirror next to the coat rack, then retrieves a magazine from the coffee table in the middle of the room. She has yet to acknowledge her mother’s presence.
“Hi, sweet thing,” Susan whispers as Nicki occupies the seat beside her.
She hears a grunt, close-mouthed, barely audible. Maybe “Hi,” maybe not. Nicki stares straight ahead, then without warning flicks her hair away from her shoulders, absently whipping it across the side of her mother’s cheek.
“Ow! Watch that,” her mother says, a touch too loud.
(3)Nicki’s entire body tenses, her soft features hardening into a frown. Not here two minutes, Susan thinks, and I’ve already managed to offend her. She wonders only briefly why it’s her daughter who’s angry when she’s the one who’s been hurt.
【和訳】
スーザン=リクトマンは歯医者の混雑した待合室に座っている。彼女は娘のニッキーが到着するのを待っている。とはいえ、今朝玄関先でのニッキーの最後の言葉は「絶対イヤ」というものであり、彼女は誰からも歯列矯正器を付けられるつもりなどなく、誰も彼女にそれを強制する事などできないのだった。たとえ母親であっても。いや、母親であるから『なおさら』。スーザンは今、そのように強調して考えている。
彼女は時計をチェックした。もうすぐ4時だ。ニッキーの予約の時間まであと数分ある。彼女が現れるとしても遅刻するだろうと、スーザンには分かっていた。ニッキーはいつも遅刻するのだ。母のスーザンはいつも早いにもかかわらず。
(1)彼女は待合室のドアをじっと見つめる。ドアが開き、ニッキーが入ってくるよう願いながら。しかしニッキーはこの頃、母の願いに対して顕著に反抗的になってきている。そしてドアは固く閉ざされたままである。15歳の女の子はみな、これほどに頑固なのだろうか?これほどに理屈っぽいのだろうか?かつては母親を絶対的に、そして無条件に愛していた少女、母親をいつも可愛らしく、そして完全なる敬愛の眼差しで見ていた少女に、何が起こったというのだろうか?今や、ニッキーがこちらを見てくれる時はいつも、嫌悪感でまぶたが重くなった眼差しである。まるで、この現実離れした女、この古めかしく役立たずな暗黒時代の遺物が、本当に自分の『母』であるということに失望しているかのようである。誰かが、どこかで、酷い間違いをおかしたのだ。
全ての間違いをおかしたのは自分だ、スーザンは静かに認めている。自分こそが、甘やかしすぎたり厳しすぎたり、詮索しすぎたり無関心すぎたり、古風すぎたり流行を追いすぎたり、多すぎたり少なすぎたりした、張本人なのだ。怒りすぎる。過保護すぎる。不機嫌すぎる。感情的すぎる。疲れすぎている。なんであれ自分は過剰なのだ。ただ一つ、母親のあるべき姿としてあらゆる本が説いている、一貫性ということを除いては。ただし、『一貫した一貫性の欠如』というものに価値がなければの話だけれど、と彼女は望みをつないで考えている。
私の母のようにはいかない、とスーザンは考える。
スーザンの目には自然と涙が浮かんでくる。ニッキーが生まれてたった数ヶ月後に癌で死んだ母のことを考えると、いつも涙が出るのだ。母はあれほどまでに美しく、あれほどまでに我慢強かった。あれほどまでに直感的に、言うこととなすことの全てが正しかった。(2)娘である私がこのような母親になったことについて、母が生きていたら何を思うだろうか?私にどんなアドバイスをくれるだろうか?赤ん坊だった孫娘のニッキーが成長して、だんだんと難しい若い娘になっていくのを、母ならばどう扱っただろうか?
定刻ぴったりに、待合室への扉が開き、ニッキーが颯爽と入ってくる。ニッキーはいつも颯爽と歩く。ニッキーの動作は、あたかもカメラが後ろから付いてきて、彼女の全ての仕草を録画していて、彼女は自分が『演技中』だと示すカメラの赤い表示灯に用心深く注意を払っているかのようである。ニッキーはジャケットを脱ぎ、掛け、コート掛けの隣の小さな鏡を覗いて、彼女の茶色の長い髪をフワリと整える。そして待合室の中央のコーヒーテーブルから雑誌を一冊取ってくる。そうした娘の自己陶酔しきった様子を、スーザンは畏敬の念を込めて見つめている。ニッキーは未だに母の存在に気付かない振りをしたままである。
『ハイ、ニッキー』スーザンは隣に座ったニッキーに囁く。
娘が何かぶつぶつ言うのが、スーザンには聞こえる。口を閉じたまま発せられる、かろうじて聞こえる程度の声だ。『ハイ』と言ったのだろうか、あるいはそうではないかもしれない。ニッキーは真っ直ぐ前を見つめている。そして彼女は唐突に、肩にかかった髪を払い、その髪がうっかり母の頬にピシャリと当たる。
『痛っ!気を付けて』母が言う、その声がほんの少し大きい。
(3)ニッキーの体全体に緊張が走り、彼女の穏やかだった表情が強張って、しかめ面になる。ここに来て2分も経っていないのに、もう娘を怒らせてしまった、とスーザンは考える。痛い思いをしたのは私なのに、なぜ怒っているのは娘の方なのだろうか、と彼女はふと思う。
【難単語・難熟語】
- brace 歯列矯正器
- will 望む、祈る
- of late 最近
- deign (へりくだって)もったいなくも〜して下さる
- irrelevant 今日性のない、役に立たない
- lenient 甘い、寛大な
- inquisitive 詮索好きな
- moody 不機嫌な、気分にむらのある
- count for something 重要である、価値がある
- as if on cue 予定通りに、ぴったり
- telltale light 表示灯
- guarded 用心深い
- in awe of~ 〜に畏敬の念を抱いて
- fluff (髪の毛を)けば立てる、膨らませる
- coffee table ソファーの前に置く低いテーブル
- grunt ぶつぶつ言う
- absently うっかり
- a touch
- feature 顔かたち、容貌
- frown しかめ面、不快の表情
- offend 怒らせる、気分を害する
【読解・解答のポイント】
- 下線部(1)について。Susanの思考が地の文に表出した形(描出話法)が見られる。Are all fifteen-year-old girls so stubborn?→Susan wonders “Are all fifteen-year-old girls so stubborn?”と考える。of lateは見慣れない熟語かもしれないが、全体として平易。最後の文の関係詞節が長いので、上手くまとめること。
- 4段落のconsistently inconsistentについて。スーザンには一貫性がない(甘やかしすぎたり厳しすぎたりなど)→また何事も過剰である(怒りすぎる、過保護すぎるなど)→ただし一貫性についてだけは過剰でない(つまり一貫性がない)から、それは自分の救いかもしれない→ただし『一貫性がないこと』にまで一貫性の価値が認められるとしたら(つまり常に一貫性がない状態でなければならないとしたら)、自分はそうだとは言えない(つまり一貫性がある場合もあれば一貫性がない場合もある)
- 下線部(2)について。下線部(1)もスーザンの思考が地の文に混じり込んでいたが、(2)は完全に描出話法(中間話法)と呼ばれる形。直接法に直した形を意識して解くべき。その一環として人称代名詞が誰を指しているのかをしっかり示さねばならない。また仮定法(母が生きていたならばという仮定)が用いられている。仮定法に関しては、下線部(2)より前を読んでいなければ理解できない。話法についての理解、仮定法についての理解、それまでの文脈の理解が問われており、しかも単語は簡単という良問。描出話法では主語+伝達動詞が省略される。以下のように直接法に直して考える。Susan wonders “What would my mother think of the mother I had become? What advice would my mother give me? How would my mother have handled the increasingly challenging young woman(Nicki) her infant grandchild had grown into?” 。また下線部(2)の第一文と第二文は仮定法過去、第三文は仮定法過去完了。
- 下線部(3)について。比較的平易。『tense, feature, offend, frownあたりの単語を知っているか』『sheやherが母と娘のどちらを指しているのかを理解できているか』『強調構文が見えるか』の3点がポイント。強調構文は元の形に戻して考える。it’s her daughter who’s angry when she’s the one who’s been hurt.→her daughter is angry when she’s the one who’s been hurt.
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⑴ドアが開き、ニッキが歩いてくるのを期待しながら、彼女は待合室のドアをじっとみつめる。しかし、この頃ニッキは明らかに母の意思に対して反抗的になってきている。そしてドアは完全に閉まったままである。15歳の少女というものは全員こんなにも頑固なのだろうか。ここまで理屈っぽいのだろうか。かつて母親への愛は絶対的で疑いようもなく、全ての視線を甘美に、完全に賞賛を持って向けていた少女に一体何が起こったのだろう。
⑵自分の娘が母となった事を彼女はどう思うだろうか。どんなアドバイスをくれるだろうか。彼女の孫が赤ちゃんからますます気難しい若い女となった事を、彼女はどう思うだろうか。
⑶ニッキの体全体に緊張が走り、表情が不快感を示す。2分も経たないうちに、彼女は娘に不快な思いをさせてしまったと考える。ふと、私を痛い目に合わせた娘が怒っているのはどうしてだろうと思う。
前回1999❶の記事でコメントさせていただいた者です。今回もよろしくお願いいたします。
素晴らしい解答ですね。全体として大きな問題はないですし、十分合格の力があると思いますので、あえてかなり細かい点まで指摘しようと思います。正直言って、本番でこれだけの解答ができれば、細部にこだわるよりも他教科の勉強に時間をかけたほうが良いかもしれませんが(笑)
(1) ほぼ完璧です。10点満点だとしたら、10点で良いのではないでしょうか。ひとつ気になるのは、最後の文の『全ての視線を甘美に、完全に賞賛を持って向けていた』の部分が、少し不自然に感じる所でしょうか。当サイトでは前後の文脈から『母親を見ていた』としてしまっていますが、母親に限定せずあなたの解答を活かすのであれば、『全ての視線が可愛らしさと完全なる賞賛で満ちていた(少女)』としてはいかがでしょうか?
(2) 僕ならば10点中、7点をつけます。第一文について。『母となったことについてどう思うか』ではなく、『このような母になったこと』『母親としての役割を果たせているのかどうか』について、どう思うかという意味です。『母親となったことについてどう思うか』であれば、What would she think about her daughter having become the mother? などとなるはずです。the motherは『その母親』『スーザンがなってしまったダメな母親』のことであり、それについてどう思うか、ということです。第三文について。handleは『扱う、処理する』という意味です。『赤ちゃんからますます気難しい若い女となった』が元の英文を読んでいれば分かるのですが、なんとなく不自然に感じます。『からますます』のせいかもしれません。祖母はニッキーの可愛かった頃しか知らないわけですから。
(3) 僕なら10点中8~9点をつけます。第一文について。softについて訳に含めた方がよいでしょう。第二文、第三文について。今回は和訳するにあたり人称が難しい文章です。第二文でSusanとIを『彼女』と訳して、第三文のsheを『私』と訳す逆転にそれほどの合理性がないように思います。全体的に読めばもちろん人間関係は理解できるので、それほど減点されないかもしれません。when she’s the one who’s been hurtの部分は、そのまま受け身的に訳して、she=Susanなのを理解しているとアピールした方がよいでしょう。