東大過去問 1974年 第1問(要約)

/ 12月 5, 2019/ 第1問(要約), 東大過去問, 過去問/ 6 comments

  • 添削を希望する生徒や疑問点がある生徒はryujutanakake@yahoo.co.jpにメールするか、下のコメント欄に書き込んでください。
  • 下に『解説』『生徒の解答とその添削』『コメントと返信』があります。
  • 難易度★★★★☆(4/5)
  • 東大要約問題の一覧はこちら

 

【目次】

  • 上記各項目のクリックで移動します。

 

【問題】

次の文の大意を100字から120字の範囲の日本文でしるせ。ただし句読点も字数にかぞえる。

The revivals of memory are rarely literal. We naturally remember what interests us and because it interests us. The past is recalled not because of itself but because of what it adds to the present. Thus the primary life of memory is emotional rather than intellectual and practical. Savage man recalled yesterday’s struggle with an animal not in order to study in a scientific way the qualities of the animal or for the sake of calculating how better to fight tomorrow, but to escape from the dullness of today by regaining the thrill of yesterday. The memory has all the excitement of the combat without its danger and anxiety. To revive it and revel in it is to enhance the present moment with a new meaning, a meaning different from that which actually belongs either to it or to the past. Memory is vicarious experience in which there are all the emotional values of actual experience without its strains and troubles. The triumph of battle is even more vividly felt in the memorial war dance than at the moment of victory; the conscious and truly human experience of the chase comes when it is talked over and re-enacted by the camp fire. At the time of practical experience man exists from moment to moment, preoccupied with the task of the moment. As he re-surveys all the moments in thought, a drama emerges with a beginning, a middle and a movement toward the climax of achievement or defeat.
(注) vicarious experience: 実際の経験のかわりになるもの

 

【単語】

  • revival of memory 記憶の再生
  • rarely ほとんど〜ない
  • literal 元のままである、文字通りである
  • remember 思い出す
  • recall 思い出す
  • not because ~ but because… 〜だからではなく…だから
  • primary life of memory 記憶の基本的な活動
  • emotional 感情的な
  • intellectual 知的な
  • practical 実用的な
  • savage man 未開人
  • struggle with an animal 動物と格闘する(狩りをする)
  • study in a scientific way 科学的に研究する
  • for the sake of~ 〜のために
  • calculate 算定する、見積もる
  • dullness 退屈
  • regain the thrill of yesterday 昨日のスリルを追体験する
  • excitement of the combat 格闘の興奮
  • revive 再現する
  • revel~ 〜を非常に楽しむ、ふける
  • enhance the present moment 現在の瞬間を高める
  • vicarious 我がことのように感じられるような、現実のように感じられるような
  • emotional values 感情的な価値
  • strain 緊張
  • triumph 大勝利
  • vividly 鮮やかに
  • memorial war dance 勝利を祝うダンス
  • talk over じっくり語る
  • re-enact 再現する
  • exist from moment to moment 瞬間瞬間を生きる
  • preoccupied with~ 〜で精一杯である
  • emerge (物陰などから)出現する
  • achievement 達成
  • defeat 敗北

 

【和訳】

記憶の再生においては、手がまったく加えられないという事はほとんどない。私達が思い出すのは、当然、現在興味を惹かれるものであり、思い出すのは、現在興味を惹かれているからなのである。過去はそれ自体が原因で思い出されるのではなく、過去が現在に与えたものが原因となって思い出されるのである。このように記憶の基本的な活動は、知的なものでも、実用的なものでもなく、むしろ感情的なものなのである。未開人が昨日動物と格闘したことを思い出すのは、その動物の特性について科学的に研究するためでも、明日どうやってもっと上手く戦うかを考えるためでもなく、昨日のスリルを再体験して、今日の退屈をやり過ごすためなのである。記憶においては、戦闘の興奮は完全だが、危険や不安はない。記憶を呼び起こし、それに浸って楽しむ事は、現在に新たな意味を付け加え、高める事になる。その新たな意味とは、記憶又は過去に実際に付随しているものとは別のものなのである。記憶とは実際の経験の代わりになるものであり、そこには緊張や面倒はないが、実際の経験の感情的価値は全て含まれている。大勝利は勝利の瞬間よりも、勝利を祝う踊りの時のほうが、ずっと鮮明に感じられる。獲物の追跡の意識的で、本当に人間的な経験は、かがり火の側で語られ、再現される際に訪れるのである。実際に体験している時には、人は瞬間瞬間を生きているのであり、その時しなければならないことで精一杯なのだ。全ての瞬間を頭の中で、改めて検分してみた時に、始まりがあり、中盤があり、達成や敗北に向かうクライマックスのあるドラマが現れるのである。
 

 

【解答例】

記憶の再生は、その記憶と現在との感情的関わりを前提に起こる。実際に体験しているときには、その瞬間の必要に迫られて感じられない事を、後からリラックスして思い出すことで、より鮮明な感情を伴った、意識的・人間的な物語を体験する事になるのである。(118字)

 

【解説】

【要約のポイント】英文を正確に和訳できることが大前提である

 

このポイントはどれだけ強調してもしすぎることはないですね。初見で正確に和訳できるようにすることが第一です。 ではこの文章の論理展開をまとめてみましょう。

 

◆ 第1文〜4文:最初に結論が述べられる

The revivals of memory are rarely literal. We naturally remember what interests us and because it interests us. The past is recalled not because of itself but because of what it adds to the present. Thus the primary life of memory is emotional rather than intellectual and practical.

この最初の4文に結論がまとめられています。わざと難解で抽象的な結論を最初に言ってしまう、という英文では典型的な構造です。ここで心折られてはいけません。

  • 記憶とは過去そのものではない
  • 記憶とは現在との関わりにおいて思い出されるものである
  • 記憶とは知的・実際的なものでなく感情的なもの

これを中心にすれば良いのですが、このままでは抽象的過ぎて分かりにくいですね。『記憶が過去そのものではないのであれば、どう変わっているのか』『記憶が感情的なものとはどういうことか』といった辺りを解決したいところです。

 

◆ 第5文〜6文:未開人の例え

Savage man recalled yesterday’s struggle with an animal not in order to study in a scientific way the qualities of the animal or for the sake of calculating how better to fight tomorrow, but to escape from the dullness of today by regaining the thrill of yesterday. The memory has all the excitement of the combat without its danger and anxiety.

抽象的なまとめの後には具体的な説明が続きます。この『未開人の例』そのものは要約に入れてはいけません。最初の4文と重なる部分を確認しながら読んでいきましょう。また、最初の4文には含まれない部分、論理が進展した部分があれば、要約に入れる必要があるので、そこに注意しながら読み進めなければなりません。

【要約のポイント】例を要約に入れてはいけない

【要約のポイント】抽象的な一般論と、具体的な例を照らし合わせながら読む

 

一般論   未開人の狩りの例
記憶は実用的・知的なものでない 未開人が狩りを思い出すのは動物の特性や上手な戦いを研究するためではない
記憶は感情的なものである 退屈を忘れ、スリルを得るためのものである
記憶は過去そのものではない=緊張や面倒なしに感情を味わえる 興奮はそのままだが、危険や心配がない

きれいに一般論と具体例が対応していることが分かると思います。

 

◆ 第7文〜8文:結論をもう一度述べ、新たな内容を追加する

To revive it and revel in it is to enhance the present moment with a new meaning, a meaning different from that which actually belongs either to it or to the past. Memory is vicarious experience in which there are all the emotional values of actual experience without its strains and troubles.

基本的に最初の4文に触れられていたことではあるのですが、よりはっきりと『記憶の再生は過去そのものに新たな意味を付け加える』と述べられています。 そして新たな内容として、『緊張や面倒なしに感情を味わえる』と書かれています。これは未開人の例における『興奮はそのままだが、危険や心配がない』に対応しています。この部分は新しい内容なので要約に含めましょう。

  • 記憶の再生が実際の過去と違う部分→緊張や面倒なしに感情を味わえる

 

◆ 第9文:戦勝の例え 2回目

The triumph of battle is even more vividly felt in the memorial war dance than at the moment of victory; the conscious and truly human experience of the chase comes when it is talked over and re-enacted by the camp fire.

もう一度例えが出てきましたが、新しく大切な内容も含んでいます。

  • 記憶の再生は過去そのものよりも鮮明である
  • 『感情的である』=『意識的で真に人間的な経験』

 

◆ 第10文〜11文:結論をもう一度述べ、新たな内容を追加する 2回目

At the time of practical experience man exists from moment to moment, preoccupied with the task of the moment. As he re-surveys all the moments in thought, a drama emerges with a beginning, a middle and a movement toward the climax of achievement or defeat.

これまでと重複するような内容を述べていますが、新しい内容もあります。

  • 実際の体験ではその時のタスクで精一杯である(=記憶の再生では感情に没頭できる)
  • 記憶の再生においては、現実がドラマチックに再構成される

 

全体としては、最初に結論を述べた上で、具体例を挙げて繰り返し説明し、少しずつ新しい内容を織り混ぜていくといった構成になっています。要約しにくいパターンですね。

要点をもう一度書き出しておきます。

  • 記憶とは過去そのものではない
  • 記憶とは現在との関わりにおいて思い出されるものである
  • 記憶とは知的・実際的なものでなく感情的なもの
  • 記憶の再生が実際の過去と違う部分→緊張や面倒なしに感情を味わえる所
  • 記憶の再生は過去そのものよりも鮮明である
  • 『感情的である』とは、意識的で真に人間的な経験のことである
  • 実際の体験では目の前のタスクで精一杯である(=記憶の再生では緊張や面倒がないため感情に没頭できる)
  • 記憶の再生においては、過去の現実がドラマチックに再構成される

似たような内容を何度も述べているので、かえって全体像を掴みにくくなっていると思います。内容の似通っている部分をさらに削って、最低限赤字の部分が含まれていればよいでしょう。

 

【生徒の答案】

我々は自然と興味あることを記憶するが、過去を思い出すのはそれが現在において何らかの意味を持つからだ。記憶は感情的な価値を含むもので、実体験を後から想起することは当時感じられなかった結果へと向かう間の感情の変遷を知ることだ。(100字)

 

【生徒の答案の採点と添削】

解答や和訳を見ないで、しっかり自分で考え試行錯誤したことが分かります。とても好感の持てる解答です。こういう生の解答を送ってきてもらえると嬉しいです。

10点満点で言えば、5点くらいになるでしょうか。ポイントがずれているわけではありませんが、ぼやけている印象があります。 大きな問題点は

  1. 『我々は自然と興味あることを記憶するが』は誤読
  2. 『感情的な価値を含むもの』という表現はそのままでは分かりにくい
  3. 『実体験を後から想起することは当時感じられなかった結果へと向かう間の感情の変遷を知ること』がピンボケである

といった所です。

一つずつ説明していきましょう。

まずは1つ目です。 『我々は自然と興味あることを記憶するが』はWe naturally remember what interests us and because it interests us.の部分でしょうが、ここでのrememberは『思い出す』という意味であり、『記憶する』という意味ではありません。

この文を少々強引に和訳すると、『私達が思い出すのは、当然、現在興味を惹かれるものであり、思い出すのは、現在興味を惹かれているからなのである。』となります。

いずれにしても『我々は自然と興味あることを記憶するが』という譲歩的な部分は、要約に含める必要はないでしょう。

2つ目です。 『記憶は感情的な価値を含むものである』と言われて意味が分かるでしょうか?普通これだけでは、この文で述べられている内容を理解することはできないでしょう。もう少し詳しく

  • 実際の体験ではその時なすべきことで精一杯であるが、記憶の再生では緊張や面倒がないため、落ち着いて意識的に感情を味わうことができる=人間的

というような内容を分かりやすく説明する必要があります。ここを意識的に分かりやすく説明することで、要約の見通しがよくなります。

 要約の大切なポイントを再確認しておきます。

【要約のポイント】要約とは、本文を読んでいない人でも、それを読むだけで内容を把握できるものでなければならない

くうはく

3つ目です。『実体験を後から想起することは当時感じられなかった結果へと向かう間の感情の変遷を知ること』は最終文を指していますが、ポイントがぼやけています。『当時感じられなかった』が、『結果』にかかっているのか、『感情』にかかっているのか分かりにくいという問題もあります。『記憶の再生においては、過去の現実が起承転結をもったドラマ仕立てに再構成される』とでも言えばスッキリするでしょう。

全体として『具体例を除いて、大切そうな所を和訳した』といった印象の要約になっています。『とにかく分かりやすく書く』ということをもっと意識すると良いと思います。抽象的な内容だからといってぼんやりとしてよいわけではありません。

もちろん優秀な生徒ですから、和訳を見て、時間が十分にかければ、しっかりした答えが書けたのだと思います。真面目に解いて、そのままの解答を送って来てくれたのでしょう。

英文が読めていなかったのかもしれないと感じる部分もありますので、まずは英文の内容を完全に理解することから始めましょう。

(Visited 3,807 times, 1 visits today)
Share this Post

6 Comments

  1. 人は退屈をまぎらわせるために現在興味を持っている過去の事柄を実際よりも劇的なものに改編して記憶として呼び起こす。狩りや勝負などは、その最中は夢中なのでじっくり味わうことができないが、後で振り返るときはゆっくりと味わうことができる。(115字)

    1. コメントありがとうございます。毎回しっかりした解答で、しかも自分で考えて作ったことが分かるのでいつも感心しています。

      本文を誤読している部分はないので、大きな減点はないでしょう。当サイトの解答との大きな違いは例を含めるかどうかという部分です。個人的には狩りや勝負の例を要約に含める必要はないと思っており、そのことは解説にも詳しく書いていますが、この年は字数的に余裕があり必要な要素をおさえているので、こうした解答もありなのかもしれないと興味深く読ませてもらいました。

      『退屈をまぎらわせるために』は減点の可能性があります。これは未開人の狩りの例の中で出てきた文言であり、過去を思い出す時に一般に言えることではないでしょう。第二の例である『勝利を祝う踊り』の時も、退屈しのぎに過去を思い出しているとは言えないでしょう。

      必要な要素が詰め込まれている解答だと思いますが、一般論が前半に凝縮されていて、後半は薄くなっているので、通して呼んだ時にアンバランスに感じます。『じっくり味わうことができないが』『ゆっくり味わうことができる』という部分も重複しており、時間がきびしかったのかもしれませんね。

      この回はかなり難しく、しっかりした要約ができる生徒はまれなので、高評価されてよいと思います。僕であれば8点を付けます。

  2. ご説明ありがとうございます。この年の問題は、字数がもっと少なければよかったのに、と思ってしまう、珍しいパターンでした。一般論は読み取れても、他に何を加えるか迷いました。結果的に後半部文が散漫になってしまいました。「退屈を紛らわせるため」の要素が一般的ではないというご指摘はおっしゃる通りでした。

  3. 記憶はそれ自体によって呼び起こされるのではなく、それが現在とどのように関係しているかということによって思い出される。その瞬間はその時の物事に心を奪われているが、後になって何かをきっかけにその記憶が鮮明に蘇ってくるのだ。(112字)

    1. Takashiさん、コメントありがとうございます。ポイントをしっかりおさえ、文もまとまっているので、良い解答だと思います。

      ただどちらかというと本文の前半を重視した解答になっており、本文後半の内容が「鮮明に蘇る」でまとめられているのは物足りない気がします。記憶は後で呼び起こした時にこそ、『感情的な価値・人間的な経験・ストーリー性』が現れるという点に触れたい所です。

      その分の字数は、Takashiさんの解答の『それ自体によって呼び起こされるのではなく』を削って都合すればよいと思います。『AではなくBである』という流れの場合、要約では『Bである』とだけ述べればよい事が多いです。

      僕であれば10点中6~7点を付けます。かなり難しい年なのでこれだけ取れれば有望だと思います。

  4. 記憶とは知的で現実に則したものというより感情的な要素が強く実際の経験の代わりとなるものだ。実際に人間は一瞬一瞬を生きており、その瞬間は事柄に専任している過去の事柄を頭で再現する際に起承転結のあるドラマが生まれるのだ。

Hiroaki へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*
*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)